"18歳選挙権"に息を吹き込むために。政治教育に本当に必要な3つのこと

18歳選挙権を意味あるのものにするためには、日常で若者と政治が触れ合う機会と場の提供を地道に続けることが必要です。

NPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」(以下ぼくいち)代表理事の後藤寛勝です。

1月も既に中旬に差し掛かりました。遅くなってしまいましたが、本年もどうぞよろしくお願い致します。

私は現在21歳の大学3年生で、18歳から若者と政治をつなげる活動を行ってきました。ホットなニュースも重なって、昨年から「若者と政治」の関係性に関する記事やニュースがメディアで取り上げられることが多くなってきました。この2016年という1年は「若者と政治」分野で活動してきた、私たちを含む多くの方々にとって非常に意味のある1年だと捉えています。

2016年は「若者と政治」の1年に。

今年の夏に行われる参議院選挙は、18歳選挙権成立後初めての国政選挙です。

これに伴ってメディアでは"18歳選挙権が日本を変えるか否か"や"若者の一票で本当に政治は変わるか否か"という議論が巻き起こっていますが、私が個人的に間違いないと思っていることは1つです。

それは、選挙権年齢引き下げは「若者と政治の関係性が変わるきっかけ」でしかないということです。

きっかけでしかない以上、本質的なゴールを見据える必要があります。それを私たちは「公教育での政治教育の充実」を主軸とした「若者と政治が触れ合う機会と場作り」をすることだと考えています。

もちろんこの分野で活動をしてきた以上、今回の引き下げ成立は"投票"というツールが若者の政治参加の選択肢として確立された意味では、とても喜ばしいことだと思っています。しかし、手放しで喜ぶというよりも、選挙権年齢の引き下げは1つの"経過"と捉えるのが適切ではないでしょうか。

私自身、活動を続ける中で思うのは、"若者の政治に関する意識は高い!"と言い切ることはできない一方、私たちは未来の政治への漠然とした不安や疑問や違和感を抱えており、決して世の中全般に興味がないということではないということです。だからこそ「これを機に政治に関心を持とう」「選挙に行こう」という単発な啓発で終わるのではなく、その若者の形にならない自分の気づきや発見を、政治と繋げる場と機会づくりをすることが必要なのです。

そこで今回は、ここまで活動してきた肌感覚をもとに、そのような機会と場づくりのアプローチについて書きたいと思います。

「政治教育=模擬選挙」は、大きな間違い。

今の日本では「若者と政治が触れ合う場と機会づくりとしての政治教育=公民の授業や模擬選挙」という印象があまりに強すぎます。今の中高生が政治を学ぶ機会がどこにあるかというと、ほとんどが学校です。ただ、学校で学ぶ政治の授業は「衆議院が何人、参議院が何人、国会の会期は何日で、、」というような公民や社会科で"政治の枠組み"を学ぶことが主流です。

18歳選挙権で新しく有権者となった240万人を教育するために取られている一番の手段が"模擬選挙"ですが、ここでも、学ぶことと言えば、選挙の仕組みや投票の仕組みといった"枠組み"なのです。このことから私は、模擬選挙を政治教育と呼ぶには安直すぎる気がしています。授業の1コマ数十分でゴールを"betterを選ぶ"投票だけに設定するのはあまりにもったいない。では、何を学ぶことが本当の政治教育なのでしょうか。

◆政治教育に本当に必要なこと。

前回の記事でも述べましたが、政治教育で得るべき力は"枠組み"を学ぶこととは別に2つあると考えています。それは

自分の住んでいる地域や社会の課題を発見する力

その課題に対する自分の取れる選択肢を見出す力

です。

なぜなら、若者と政治の化学反応は未開拓で大きな可能性を秘めていて、ただそれに気づけていないだけだからです。誰の生活にも密接に関わっている政治は、向き合い方次第で若者にでももっとよくすることができます。一見解決できない遠く思える大きな問題も、噛み砕き続けて自分の住んでいる地域や自分の問題に落とし込むことができればその可能性に気づけることができるはずです。これを教えることをせず、"枠組み"だけを教え続けても意味がないのではないかと思っています。

先に挙げた2つの力を得ることのできる政治教育のプログラムを、ぼくいちでは"票育"と名付け全国の中学高校で授業を展開しています。このプログラムには、通常の模擬選挙と違った特徴が大きく3点あります。

1点目は、まず授業実施の地域を22歳以下の若者が主体となってフィールドワークやヒアリングを通して学習する点です。授業自体の担い手が若者です。

2点目は、その学習成果を若者自身が「授業」という形で中高生の教室に届ける点です。1コマ1コマをその地域の課題にそったオーダーメイド型で実行しています。

3点目は、投票をゴールとして設定はしていない点です。あくまで、自分の住んでいる地域や社会にどんな課題があって、その課題に対して自分はどう向き合うかを理解できる力を養うことがゴールです。

以上3点から学校で体験できることのない政治との関わり方を実現することが必要で、それ自体が新しい「政治教育」だと私たちは捉えています。

1つの正解に依存してはいけない。

若者と政治の関係性を変えるための方法には、一つの解が存在するだけではありません。選択肢は無限大です。私が言いたいのは、その一つの解に依存しすぎてはいけないということです。

例えば、政治教育が必要だと言われれば模擬選挙のみが選択肢としてあがったり、若者も声を挙げなければいけないと言われればデモのみが選択としてあがったりなど。大切なのは、有権者が240万人も増え、新しく一票を持った若者が政治とどう向き合うことができるか、その参加の選択肢を社会が広く提示することなのではないでしょうか。だからこそ、2016年、18歳選挙権が実現する上で必要となる政治活動の主軸は、「若者と政治が触れ合う機会と場作り」を行い、それを通じて幅広い参加の選択肢を生み出していくことなんです。

"18歳選挙権"を意味のあるものにするために。息を吹き込むために。

2016年は間違いなく「若者と政治」の関係性が変わるチャンスとなります。

18歳選挙権はその始まりにすぎません。次の発展を考えること、公教育での政治教育の充実、そして日常で若者と政治が触れ合う機会と場をつくること。このことは、もちろん今までになかったアイディアに富んだ地道な活動を続けることでしか扉は開きません。

All Photos Taken By:星野大秀&藤森利明(Fujimori Riki)

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