ダイエットで心まで痩せないために

健康的にダイエットを成功させるためのヒントを、イスラエルの研究者らの報告から考えてみましょう。
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前回、日本でも肥満が問題となっているという話をしました。しかし反面、若い女性では「痩せ」が深刻で、ダイエットがきっかけの摂食障害と併せて問題になっています。健康的にダイエットを成功させるためのヒントを、イスラエルの研究者らの報告から考えてみましょう。

痩せているのに「太ってる」

2012年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、40〜60代男性の約3人に1人は「肥満」(BMI≧25)という結果です。一方、若い女性では「痩せ」(BMI<18.5)が深刻な問題となっています。同じ調査で、20代女性の21.8%、30代女性の17.1%と、若い女性の約5人に1人を占めています。

その25年前の1987年には、20代女性の18.6%、30代女性の9.5%だったことから、とくに30代女性の痩せの増加が目立ちます。

問題は、実際には「痩せ気味」にあたる場合でも、彼女たちが自分を「太り気味」と評価しがちなことです。低い自己評価とボディイメージに対する不満は、食べ物を受け付けなくなる「拒食症」や、食べては自発的に吐き戻す行為を繰り返す「過食症」といった摂食障害の背景であり、また症状でもあります。摂食障害の患者は、自己肯定感が低いことも特徴とされています。

自己肯定感を左右するもの

これまでに摂食障害や肥満、痩せなどに関する多数の論文を報告しているイスラエルの研究者、モリア•ゴラン博士らは、大学生における健康意識と自己認識、ライフスタイルに関する調査を実施しました。

Health Perceptions, Self and Body Image, Physical Activity and Nutrition among Undergraduate Students in Israel.

PLoS ONE 8(3): e58543. 2013.

doi:10.1371/journal.pone.0058543.

調査対象は学生1574人(女性1010人、男性564人)で、自己申告のアンケート調査を行いました。アンケートは大まかに、健康意識、自己イメージ、ボディイメージ、身体活動、栄養の5項目に分かれています。

これまでに、定期的に運動する学生は、外見が改善することで、身体測定にあまり気を取られなくなり、社会や周囲からより多くの好意的あるいは前向きな評価を受け、それらが好循環を生む結果、彼らは活動的でない学生より肉体も情緒も著しく健康的であることが報告されています。こうした知見に基づき、博士らは3つの仮説を立て、検証しました。

【仮説】

1.女子学生は男子学生よりも自己イメージとボディイメージが低い。さらに運動はより少ないが、食事には十分注意をする。

2.健康的な食生活と運動は、健康的な自己イメージや健康意識と関連づけられる。

3.栄養と理学療法の学生は、他の学生に比べ、健康的な食生活と運動の習慣がある。

【結果】

・運動をしていない:

女子学生47.2% 男子学生27.8%

・健康的な食生活に注意をしている:

女子学生35.7% 男子学生28.0%

・減量したい:

女子学生51.5% 男子学生41.0%

・同年齢の他の人より体型が優れていると感じる:

女子学生29.2% 男子学生46.4%

・同年齢の他の人よりより健康と感じる:

女子学生29.4% 男子学生48.4%

・自分の姿に満足している:

女子学生19.0% 男子学生28.4%

【考察】

1.男子学生は、より健康を意識し、積極的に運動し、自分の姿に満足していました。一方、女子学生は自己イメージとボディイメージに不満が強く、外見上の理由から運動をします。女子学生が男子学生よりもバランスのいいダイエットに注意するのも、外見をよくするという動機が強いようです。また、女子学生は健康のために運動よりも食生活を重視する傾向にあります。しかしながら男子学生より運動せず自分の姿に満足できない分、カロリー摂取量を減らしています。

2.健康意識と適切な食生活との間、あるいはポジティブなボディイメージとの間に、強い関係性が見られました。運動に励んで活動的な学生は、より高い健康意識を持ち、より高い健康意識はより良い食習慣につながりました。また、自己イメージの満足度を高める上では、適切な栄養よりむしろ定期的な運動がより大きな影響を与えていることも分かりました。

3.仮説に反し、理学療法科の学生よりも栄養科の学生のほうが、その他の分野の平均的な学生よりも運動や適切な栄養摂取に励んでいました。その結果、健康意識と適切な栄養、ポジティブな自己イメージおよびボディイメージとの間に強い関係性が認められました。

"イメチェン"にはまず運動!

今回の論文では、それまでに報告されている関連研究も踏まえ、大学側が栄養指導や健康的なメニュー提供を行ったり、スポーツ施設や運動器具・指導を充実させたりするなど、学生に対し健康的なライフスタイルを政策的に促す環境づくりが大事だと結論づけています。行動や意識を変えるにはまず環境から、ということでしょう。ただ、私が注目したのは、定期的な運動の持つ意味が今回の調査で示された点です。直接的・肉体的な健康効果に加え、自己イメージへの満足度を高めることに栄養以上に大きく貢献していました。要するに運動が自己認識を変える、いわば"イメチェン"を可能にする、ということです。

一般にイメージチェンジとは、外見などをすっかり変えて以前と大きく違う印象を周囲や世間に与えることですが、ここでのイメチェンは他人に向けてではなく、自分で自分をどう思うかという問題。髪型やメイクなど外側を変えてみても、自己イメージや自分の中にあるボディイメージはたぶん変わらないですよね。ダイエットをきっかけとした摂食障害でも自己肯定感の欠如が指摘されていますが、拒食症で痩せ細ってもなお、誤ったボディイメージに支配され続け、「自分は太っている」「太ったら困る」という強迫観念を抱いている人が多いのです。

逆に、健康意識を持って積極的に運動し、そうして獲得した自分の姿に満足できれば、自分の中にある自分自身の評価を変えることができます。自己肯定感が高まり、内側から外側まで、身も心もイメチェンできるのです。過程と結果の両方に自信が持てた時、心から自分自身に納得でき、健康的なダイエットが実現するのだと思います。

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)

(2014年6月26日「ロバスト・ヘルス」より転載)