ダイバーシティを理想から現実に、先駆者3人の気づきと決断とは?

子育て・介護・働きかたを中心とした、ダイバーシティについてのディスカッション。

ハフィントンポスト日本版は2016年12月18日、イベント「Work and Life これからのダイバーシティ――子育て・介護・働きかた」を御茶ノ水ソラシティホールで開催。登壇者が経験したワークスタイルの変化や企業の実例をもとに、日本でダイバーシティを実践する方法を探った。

約300名の来場者を前に行われたパネルディスカッション「私の人生にも、ダイバーシティは必要なの?――子育てから介護まで、これからの働きかたを考えよう」をレポートする。

登壇したのは、NPO法人コヂカラ・ニッポン代表の川島高之さん、株式会社チェンジウェーブ代表の佐々木裕子さん、グーグル合同会社ブランドマーケティングマネージャーの山本裕介さん。モデレータはジャーナリストの治部れんげさんが務めた。

■いろんな人が、いろんな優先順位で働いている。私がダイバーシティの重要性に気づいたきっかけ

セッションは、登壇者たちが「ダイバーシティの重要性」に気付いたきっかけを振り返ることから始まった。

「実践を伴った子ども教育」と「企業や地域などの発展」を目指して活動する川島さんは、子どもが生まれたことを機に、子育てや地域活動、小中学校のPTA活動に関わるように。その経験が仕事の成果につながり、ダイバーシティの重要性を実感した。

自らを「変革屋」と呼び、組織改革やリーダー育成などに携わる佐々木さんは、中学生時代の思い出に触れた。当時、当たり前のことだと思っていた「(通学時などに)ヘルメットをかぶらなければいけない」という校則が、多くの人にとって馴染みのないものだと知ったときの感覚を思い出すと、ダイバーシティの必要性を痛感する。

グーグルで、テクノロジーによって働きやすい社会の実現を推進する「Women Will」などの活動に携わる山本さんは、グローバル企業である社内で幾度となくダイバーシティを実感している。たとえば、「17時以降は育児の時間なので、ミーティングを入れない」という社員も多い。「いろんな人が、いろんなライフスタイルで、いろんな優先順位で働いている。それをリスペクトし合うことが大事」だと、実体験を通して学んだ。

次に、それぞれ「猛烈仕事人間」だった時代から変わったきっかけ、意識して変えてきたことを語った。

■川島さん:「生産性倍増計画」で、子どもと過ごす時間を作る

子どもが産まれ、「いかに子どもと過ごす時間を作れるか」を考えるようになった川島さん。仕事時間を60%にしても、24時間仕事モードの同僚たちに負けないようにするため、以下の「生産性倍増計画」に取り組んだ。

1.仕事の主導権を握る、あるいは主体性を持つ:上司に伺いを立てる際にも、主体性をもって断言したり、提案したりする。

2.専門性の掛け算をする:子育てや地域活動といった私生活からのインプットを掛け合わせ、仕事のアウトプットをより高めたり、新しいアイデアを生み出したりする。

3.やらないことを決める:やることよりも、潔く「やめる」という決断をする(たとえば、子どもに合わせて夜の酒宴をやめる)。

4.「一石何鳥」を心がける:いわゆる「趣味と実益を兼ねる選択」を積極的にする(たとえば、趣味、健康、子育て、地域活動の一石四鳥を狙って、少年野球のコーチを引き受ける)。

5.苦手分野は徹底的にアウトソースする:なるべく得意なことで成果を出すようにし、苦手分野は同僚、部下などに依頼する。持ちつ持たれつの関係をつくる。

6.「ながら族」になる:会議中でも発言を聞き「ながら」勉強をするなど、時間を有効に使う。

■佐々木さん:「人生のビジョン」は何かを突き詰める

佐々木さんは、社会人歴15年目を迎えた35歳のときに転機が訪れた。それまでは求められる仕事に応えることに自分の存在意義があると信じていたが、ふとキャリアに迷いが生じた。そんなとき、ある人に「佐々木さんの人生のビジョンは何ですか?」と問われ、大きなショックを受けた。

「それまで人生のビジョンなんて考えたことがなかったんです。そこから半年あまり、自分と向き合っていろいろ考え、『人が変わる瞬間』や『その変わった人が次に新しい発見をしていく』のに立ち会うのが幸せだと気がついたんです」

その後、佐々木さんは起業の道を選ぶ。「端的に何が変わったかといえば、『自分の生き方や人生は、基本的に自分で決められる』と思えるようになりました。コントロールされているのではなく、自分が(生き方を)コントロールできるようになったのが、大きな転機でした」と振り返った。

■山本さん:転職を経て、二者択一の思考を捨てた

広告代理店に勤務し、忙しくも楽しい日々を過ごしていた頃、山本さんには「バリバリ働いてキャリアを伸ばすなら、子どもとの時間を捨てなければいけない」といった二者択一のマインドセットがあった。その考えは、グーグルへの転職や人との出会いを通じて変わっていった。

「グーグルはその日のスケジュールは全部頭に入れた上で出社し、30分単位でミーティングをバンバン片付けていく人が多い会社です。(自分の働き方次第で)二者択一を迫られることなく、どちらも手にできると気づけたのは大きかったです」

■男性は「人生のステージが変わった」ことが見えにくい

ここで、治部さんから日本の現状が垣間見える調査データが提示された。まず夫婦における家事・育児の時間差を見ると、多くの先進国では妻が夫の2倍程度なのに対し、日本では6倍から7倍に及ぶ。この状況で妻が離職すると、夫は家庭を支えようと長時間労働に及び、より男女差が固定化する。

また、都道府県別の帰宅時刻を見ると、東京都では男性の平均帰宅時間は20時半に対し、女性は18時37分。なかなか帰れない夫と、時短勤務で帰りを待つ妻という像が浮かぶ。

治部さんは「女性は妊娠すれば身体が変化するけれど、男性の難しさは『人生のステージが変わった』というのが見えにくく、まわりに気づいてもらえないこと」と言う。また、子どもができると「もっと稼がなければ」と上司から発破をかけられる日本の企業文化も根深く残る。

■「バイアス外し」がダイバーシティの第一歩

家庭に参加したい男性は、どのように問題を解決すべきか。山本さんと佐々木さんは、「バイアスを外すこと」の重要性を説く。

山本さん:「その人が何を大事にしているか、話さなければわかりません。たとえば、『女性だから子育てに熱心で、早く帰りたいと思うはず』というのもバイアスの一種です。(それぞれで異なる価値観を話さずに)なあなあのバイアスで済ませているところから、変えていく必要がある」とアドバイスする。

佐々木さんも、「企業変革やダイバーシティを推進する時に、最も根深いのは無意識のバイアス」と話す。男女差におけるバイアスは、実は子どもの段階で社会概念として紐づいていることが多く、チーム内で話し合う機会を持つことが重要だろう。

■「あなたの人生に大事ならば」をチーム内で理解できるか?

ここまでは結婚や子育てをめぐるダイバーシティの議論が多かったが、さらに理解を深めるため、「子育て以外の事例」についても語られた。山本さんが昨年、母親を実家の広島で看取った話だ。

山本さんの父親は、6年前にがんが発覚してから3ヶ月で亡くなった。だからこそ母親の病気が発覚した際には、すぐに会社に状況を説明し、「僕はこのフェーズでは、母親といることを優先したい」と希望を告げた。頻繁に帰郷したり、病院に付き添ったり、「母親が一緒にいてほしいと言うときには一緒にいられた」と山本さん。母親は希望通り、自宅で最期を迎えることができた。

「チームメンバーは『病気だから、介護だからというだけでなく、あなたの人生にとってそれが大事なのであれば』と、仕事と両立できるようにサポートしてくれて、すごくありがたかった。このフェーズにみんなが入って、同じケースを増やしていくことは今後の社会課題だと思います。子育ての話と同じく、人がどういうフェーズで、どういうことを大事にするかは、それぞれ違います。文字通りのダイバーシティですね」

■「上司が部下を信じきること」で組織が変わる

さらに議論は「ダイバーシティを支える組織にとって必要なもの」へと発展した。多様な人材が組織に増えていったとき、どのように各々のニーズを汲み取りながら、組織としてのパフォーマンスを最大化していくことができるだろうか。佐々木さんからは、2つのポイントが挙げられた。

1つめは「明確なビジョンとゴールを示す」。細かいタスクマネジメントをすり合わせることよりも、達成すべきゴールを設定し、そのためのチームであるというマインドが共有されることが大事だ。

2つめは、「上司が部下を信じきること」。たとえば、リモートワークは、ともすれば「社員がサボるかもしれない」という不安を抱える。そこで「あなたがやると言ったのだから、やってくれるだろう」と信じきれるかで成果もスピードも変わる。

この意見に、川島さんが次のように付け加えた。「部下一人ひとりに丁寧な指導と声掛けをすること、コミュニケーションが取りやすいカジュアルな雰囲気をつくることも大切ですが、やはり最も大きいのは多様性がある組織を束ねるという上司としての覚悟です。やらないことを決める。会議や資料を減らす。部下を疲弊させるお客さんを断る。私は『暇になる覚悟』も持っていました。1日1時間は極力予定を入れないようにして、部下が相談しやすいようにオープンウィンドウでいました」

■自立型キャリアが、ダイバーシティの鍵を握る

終盤を迎え、治部さんから今回のトークセッションに共通するキーワードとして「自立型キャリア」という言葉が示された。山本さんは、自らの過去を振り返り、次のように語った。

「広告代理店を辞めてインターネット事業に進むとき、当時の上司からは『そんなところに行ったって何者にもならないぞ』とすごく言われました。それでも、2006年ぐらいはインターネットが盛り上がってきていて、自分の感覚を信じて飛び出ることにしたんです。自立的にキャリアを積んでいくという考えは、言い方はかっこいいけれど、もちろん怖いし、リスクを取ることになる。それでも自分で覚悟を決めてやったら、やった分のことはやっぱり返ってくる」

佐々木さんは、個人や組織の改革をサポートしてきた経験をもとに、人が「自分の蓋」を外して変わるときの法則を述べた。

「まずは、自分は何がしたくて、何に悩んでいて、本当は何がやりたいのかということに向き合うことです。悩みの裏側には本当にやりたいことがあるはず。それを言語化できると、自分をコントロールできるようになることが多いです。それから『外に出る』こと。全然違う場で、全然違う環境で、全然違うふうに育ってきている人と、ちょっと話をしてみる。思ってもみなかった生き方に気づけるだけで、羽が生えたように飛び立って行かれる方が多いんです。ダイバーシティへの鍵を開ける意味では、この2つが最強だと感じています。ちょっと騙されたと思って、試していただければと思います」

(文 / 長谷川賢人)

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私の人生にも、ダイバーシティは必要なの?――子育てから介護まで、これからの働きかたを考えよう

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