出生率が上がった。フランスが少子化を克服できた本当の理由って?

男を家庭に返さなきゃいけない……というところから生まれた「男の産休」。
Portrait of happy parents piggybacking kids outdoors
monkeybusinessimages via Getty Images
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フランスでは、1994年に1.66と底を打った出生率が、2010年には2.00超まで回復した。少子化に悩む先進諸国の中で、なぜフランスは「子供が産める国・育てられる国」になれたのか。

約7割が取得する「男の産休」、全額保険でカバーされる無痛分娩、連絡帳も運動会もない保育園――。働きかた、出産や保育の価値観、行政のバックアップと民間のサポート。日本とはあまりに異なる点が多いフランスの出産・育児事情から、私たちは何を学べるのか?

フランスの育児システムについてレポートした『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)を上梓した髙崎順子さんと、作家・少子化ジャーナリストの白河桃子さんの対話から、少子化脱却のための方法を探る。

(左)作家・少子化ジャーナリストの白河桃子さん(右)フランス在住のジャーナリストの髙崎順子さん

■「社会と男性を信用していない」から少子化が進む

白河 『フランスはどう少子化を克服したか』で紹介されている「男の産休」の話はとても新鮮でした。サラリーマンの夫が妻の出産後3日間は出産有給休暇を、そこからさらに11日連続の「子供の受け入れ及び父親休暇」を取るという、いわば「男の産休」制度。2002年に施行して、10年後には父親の約7割が取得しているという現状、すごいことですよね。

髙崎 1994年にフランスの出生率が戦後最低の1.66まで下がったとき、「じゃあどうすればいいのか?」いうことを国が冷静に見つめて調べたんです。そうしたら、女性の就業率が上がっている一方で、子供の数が増えるほど、母親の離職率が上がることがわかった。つまり「女性が仕事と子供を両立するのは難しい」こと、そしてこのままでは、「女性は子供を産むことより、仕事を選ぶ」という現実が明らかになってしまったんです。これは1997年に発表された労働省の報告書にまとめられています。

白河 仕事と出産を天秤にかけたら、女性は仕事を取る。それが調査結果で明らかになったと。

髙崎 そう。データとファクト(事実)で。日本だったら多分それは「認めてはいけないこと」とされるかもしれませんが、フランスは潔かった。「このままでは、女性たちは育児と仕事を両立できない」という現状を認めたんです。できないものはできないんだ、と。

白河 「仕事と育児は両立できなさそう」というのは、今の日本の女子大生も感じているんです。将来の理想を聞くと「仕事をしながら早く結婚して早く子供を持って働き続けたい。でも、現実は(両立は難しいから)独身だと思う」と答える。早稲田みたいな優秀なところの学生でもそう。

髙崎 フランス流のきつい言葉で言うと、女性が「社会と男性を信用しなくなっている」んですよね。90年代までのフランスにも、それに近い空気があったのだと思います。仕事と子育ての両立を考えたとき、自分をサポートしてくれる存在として社会と男性を十分信用できないから、女性が子供を産めなくなっていく。社会と男性への信用を取り戻すためには、男を家庭に返さなきゃいけない……というところから生まれたのが「男の産休」なんです。長期間の育休では誰も取らないから、とりあえず子供が生まれたら「2週間家に帰ってくれ」「人生の一番大事なところへ立ち会え」と。2週間、パートナーと力を合わせて子供の世話をすることで、男は「父親」になるんです。フランスではこの時期を「赤ちゃんと知り合う時間」と言います。

白河 2週間の父親の産休のうち、3日間を雇用主が、11日間を国がまかなう有給休暇とされる。取得しないからといって罰則があるわけじゃないんですよね? たんに「産休という権利を担保した」ということですよね。

髙崎 そうです。罰則なんかは全然ありません。ただ、そういう風に権利を担保されると「休めるなら休みたい」となるのがフランス人の面白いところで(笑)。政府の打ち出し方もうまいんですよ。男の産休は、ここまで言えば全国民わかるだろう、頼むから家庭に帰ってくれ、という政府のメッセージなんです。

白河 なるほど。施行からわずか数年で素早く社会に浸透した背景には、制度そのもののよさと強いメッセージ性があったんですね。お金がちゃんと保障されるという点も大きいですよね。企業側は3日間だけ負担すれば、あとは国が全部負担してくれる。女性側としても「制度があるならあなたも取って」と言えますしね。

髙崎 「休めるのになぜ取らないの?」くらいな感じですね。

■「結婚に犠牲はつきもの」という思い込みの弊害

白河 もうひとつ、私はフランスが少子化を克服できた原因として、政府が女性側にメッセージを送り続けたことが大きいと思っているんです。「もし子供を持つことで失われるものがあったら、それは全て政府が補塡します」と。「女性が社会を信用しなくなっている」とおっしゃいましたが、フランスでは「男性が途中でいなくなっても、仕事を失っても、あなたの子育ては大丈夫ですよ」という政府のメッセージが女性側に届いたからこそ、「産んでも大丈夫」という空気ができた。政府の信用を取り戻せて、少子化が克服できたという点も大きいのでは。

髙崎 もう本当にその通りで。子供を持てる環境、その権利を守れる仕組みがあれば、女性は産めるんですよ。

白河 実は先日、ある政治家の男性とその話になったのですが、そもそも「子供を持つことで何かが失われる」という多くの日本の女性が持つ感覚自体が理解されませんでした。「何が失われるの? 子供を持つことはいいことだよね」という感じで。

髙崎 だから信用されないんですよね(苦笑)。現状認識力が甘いんでしょうか。もしくは、現実をあえて見ないようにしている。

白河 「子供を持つことは喜ばしい、素晴らしいこと」としか考えていないんですよね。確かに喜びは大きいが、失われるものもある。そこが理解されない。それと、日本では「我慢が当たり前」という風潮があって「子供のための我慢」も当たり前のものとされる。「家族形成のための調査」という意識調査があるんですが、最新の結果で一番ショックだったのは、若い世代が「結婚には犠牲がつきものである」にみんなマルをしていることでした。結婚する人口が増えないのも当たり前ですよね。

髙崎 いったい何を犠牲にするんでしょうか? 自由?

白河 男女共に、自由な時間とか、自由になるお金とかが失われると思っているんです。だいたい、上の世代の多くの人が「結婚には犠牲がつきもの」と考えているのに、そういうものである結婚を若い人たちにさせようとしているところがおかしいですよね。

髙崎 おかしいですね。結婚で確かに生活は変わりますが、それは「変化」とフラットに見ればよいだけで、なぜ最初から「犠牲」というネガティブな言葉を当てはめるのでしょうか。そんなことをしたら、そりゃあ誰も結婚なんてしたくなくなりますよ。既婚者世代こそが、若い人たちに「結婚=犠牲ではない」というメッセージを送らなきゃいけないですね。

■幸せはしてもらうものじゃなく、自分で設計するもの

白河 今、社会起業で「ワーク&ライフ・インターン」というものがあるんです。子育て世代の共働き家庭のところに、学生が週2回、子供の面倒をみながら共働きを学ぶという取り組みなんです。

髙崎 それは良い取り組みですね!

白河 そのインターンで、実際に子育てをしながらいきいきと仕事をしている女性と接すると、学生たちが見違えるように元気になるんです。「仕事を続けたいし、子育てもしたいけれど、無理そう……」とモヤモヤしていた子たちが、すごく前向きになる。不思議ですよね。彼女たちはとても大切に育てられてきた世代なのに、「女性はやりたいことをしてはいけない」という思い込みにとらわれているようです。

髙崎 それは、大切にされている世代だからこそ、ではないですかね。幸せは「してもらうもの」だと思っているから。幸せはしてもらうものじゃなくて、本当は、自分で設計しなきゃいけないんです。でも、それを誰も言わない。

日本の女の子と話していると、自分の幸せにものすごく無頓着だと感じるんです。「あなたの幸せって何?」と聞いても、誰も答えられない。自分の幸せが何かを自覚できていないんです。でも実際は残念ながら、誰もあなたのことを幸せにはしてくれません。だって自分のことは自分にしかわからないんだから。夫なんかにわかりませんよ。夫は夫で、自分の幸せを考えなきゃいけない。

白河 いい話。今すごく痺れました。

髙崎 私はフランス人の夫との国際結婚なんですけど、結婚を決めた理由が「何でもする」って言われたからなんです。「好きにしていい。日本に帰りたかったら日本に帰っていいし、フランスにいたかったらフランスでいい。一緒にいるために何でもするから結婚しよう」って言われたんです。

白河 素敵ですね!

髙崎 そこまで言われたら私も逆に「そうか、この人が幸せで、私も幸せであるためなら何でもしよう」と思ったんですよね。お互いのために。2人の大人が一緒に家族をつくって生きていくって、そういうことではないでしょうか。お互いがお互いの幸せの図を見えてなきゃいけない。だからうちは将来それぞれが行きつく先が違うんですよ。うちの夫は将来、崖っぷちにある古い家を改造して、1人で暮らしたいんですって。

白河 いかにもフランス人らしい(笑)。フランスの人って、そういうの好きそうですよね。

髙崎 そう。「俺一人でやるけど、来てもいいよ」って言われてます(笑)。でも、多分その頃にはお互い飽き飽きしてるからいいかもね、なんて言い合ったり。そのくらいドライな感じでも別にいいんですよ。お互いがお互いの人生にとってパートナーであるっていうことは揺るがないから。

(取材・文 阿部花恵)@nobi_nobiko

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kuniyasan<国谷裕子 プロフィール>

79年に米ブラウン大を卒業。外資系生活用品メーカーに就職するが1年足らずで退社。81年からNHKで英語放送のアナウンサーなどを務める。その後、NHKのBS でニューヨーク駐在キャスターとなり88年に帰国。BS「ワールドニュース」のキャスターを経て、93年より『クローズアップ現代』のスタートからキャスターとなり、2016年3月まで23年間、複雑化する現代の出来事に迫る様々なテーマを取り上げた。長く報道の一線で活躍し、放送ウーマン賞、菊池寛賞、日本記者クラブ賞など受賞。

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