クリントン氏の私用メール問題、FBIと司法省で亀裂 司法長官は捜査再開の公表に反対

連邦政府の法執行機関の間で亀裂が生じた。

2016年3月24日、司法省の記者会見でジェームズ・コミーFBI長官(左)とロレッタ・リンチ司法長官が並ぶ

アメリカ連邦捜査局(FBI)は10月28日、アメリカ大統領選の民主党候補のヒラリー・クリントン氏が国務長官在任中に私用メールを使った問題で、新たに政府の重要機密情報を取り扱ったとみられるメールが見つかったため、捜査を再開したと発表した。

FBIのジェームズ・コミー長官はこの前代未聞の決断に踏み切り、投票日まで2週間を切る今になって大統領選挙戦にFBIを介入させた。これにより連邦政府の法執行機関の間で亀裂が生じた。

司法省のロレッタ・リンチ司法長官は、コミー長官が司法省の規約と慣例に従うことを望んでおり、私用メール問題に関連する可能性のある新たなメールの発見を公表することに反対していた。ワシントン・ポストは司法省職員の話として報じ、ハフポストUS版は29日に確認した。

アメリカ司法省のマニュアルには、「進行中の業務と調査」では「限定的機密保持」の重要性が強調されており、「被害者や被告の権利、ならびに相手側や証人の生命と安全の保護」が求められている。

29年間司法省に勤務し、2015年8月に引退した元連邦検察官ジュリー・ワーナー=サイモン氏は、リンチ司法長官は、コミー長官が明確な重要性がほとんどない、未確認で進行中の調査を公表したことは、マニュアルに規定されている規約に違反すると指摘している。

「私の尊敬する人物がこんなことをするなんて、とてもショックだし、失望しています」と、サイモン氏は語った。「私がコミー長官と同じことをすれば、問責されます」

コミー長官の行動は「調査されなければならない」と、サイモン氏は言う。「コミー氏が違反した規約に従い、その調査は秘密裏で行なわれるべきです。そこが問題なのです」

特殊な状況では、この規約の例外とすることもありうるが、コミー長官はそれ以前に司法省の上官に相談する必要があった、とサイモン氏は言う。彼女の引退時の職務は、連邦検察官たちにこうした規範について教示する司法省首席訴訟弁護士だった。

「誰がコミー長官に許可を出したのか? 司法省のマニュアルに則った「特別な状況」だと主張するつもりだとしたら、彼は誰にそのことを相談したのか?」と、サイモン氏は言った。

ビル・クリントン大統領時代の連邦判事で、現在はハーバード・ロースクール教授のナンシー・ガートナー氏も、コミー長官の行動について厳しく非難した。

「内容を知りもしないのに、調査に関連しているかもしれないメールの存在の可能性を公表するとは、コミー長官の私的な利害関係以外に全く理由が思いつきません」と、ガートナー氏は述べた。

■ コミー長官も規約違反を自覚していた?

「そのような情報を公表するのはとんでもないことです」と、ガートナー氏は続けた。「FBI は通常進行中の調査についての情報、しかも間もなく行われる選挙に影響を及ぼしかねない情報は公表しません。さらに、そのメールの内容を全く知らないとは論外です」

コミー長官の動機として職務上の立場から考えられることは明白だ。コミー長官は共和党支持者で、機密扱いのメールを私用のメールサーバーでやりとりいた件についてクリントン氏を訴追しないことに決めたため、共和党の国会議員たちから激しい批判を受けている。

コミー長官は、新たに浮上したメール問題を公表するという自分の判断が通常では考えられないものだということは自覚していたようだ。それは、捜査再開を通知した書簡の中で、自分の部下にその決断についての説明をしているところからうかがわれる。

「もちろん、本来は議会に対して進行中の調査のことを話すようなことはしない。しかし、ここ数カ月間FBIの調査は完了していると繰り返し証言してきたからには、自分としてはこの新たな動きについて話をする義務があると感じている」とコミー氏は書簡に記している。「さらに、もし経過記録を補足しないでいれば、アメリカ国民に対して誤解を生むことになるとも考える」

実際のところ、連邦検察官OBたちの中には、コミー長官のこれまでの声明を考えてみると、彼が議会から追跡調査するよう要求されていたのだろうと考える人間もいる。

元連邦検察官で、ビル・クリントン元大統領のモニカ・ルインスキーさん不倫疑惑の調査で副独立検察官を務めたソロモン・ワイゼンバーグ氏は、コミー長官は7月に過ちを犯したという。司法省がクリントン氏を起訴しないという発表をした中で、コミー長官はクリントン氏の行動を批判し、さらに、裏付けとなる新たな情報が見つかれば調査を再開すると発言している。そのことで、コミー長官は議会に対して進捗の報告を続けることが義務づけられることになってしまった、とワイゼンバーグ氏は指摘する。

「コミー長官の義務は沈黙していることだったのに、彼はそうしなかった。規約に違反することについて話そうとしたら、彼は道路地図を差し出した」と、ワイゼンバーグ氏は言った。

その過ちを犯したために、コミー長官は議会に対して新たなメールの発見について報告する義務が生じてしまった、というのがワイゼンバーグ氏の主張だ。

「コミー長官は、事態が変わった場合は報告する、と言ってしまった。そのために、そうする義務を課せられたわけです」と、ワイゼンバーグ氏は言う。

ジョージ・W・ブッシュ政権時代の国務省と国防会議の法律顧問だったジョン・べリンガー氏は、共和党候補ドナルド・トランプ氏を選挙で「拒否」するよう要求する書簡に署名した、数多くの共和党元連邦検察官の1人だ。そのべリンガー氏もまた、ワイゼンバーグ氏らと同意見だ。

「重要な情報を隠し持っていたことを後になって議会から非難されないように、コミー長官が今ここで事実を公表するしか方法がなかったとは思えない」とべリンガー氏は言った。

しかし、べリンガー氏は「通常はもっと時間をかけてあらゆる手がかりを捜査するとしても、選挙を目前にし、コミー長官はアメリカ国民に対して彼の判断・評価を公表する義務があった」と付け加えた。

しかしサイモン氏は、もしコミー長官が調査について進捗状況を議会に報告する義務があると感じたのであれば、自分の入手した情報の影響について、もう少しはっきりした立場を示すべきだった、と考える。

コミー長官は、一連のメールが「調査に関連していると思われる」と述べており、他の部分でも、規約の例外を作ることを正当化できるような確固たる信念に欠けていると、サイモン氏は指摘する。

「完全性について議論するのに何らかのルールがあるとしたら、議論を呼ぶような公表をする時は、より率直でなければいけません」と、ワーナー=サイモン氏は言う。「『思われる』とか『可能性がある』とか『おそらく』と言った言葉や、その他条件付きの言いまわしではいけません。本当にやるつもりなら、少なくとも正々堂々と、徹底的でやらなければいけません」

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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